「これ、なんて読むかわかる?」
「“はんえい”」
「うん、正解です」
「この表紙って何の絵か知ってる?」
「アダムとイブでしょ? 初めはアダムとイブだけだったのに、そこから人間が生まれてきてすごいな~、って思う」
「なるほど。たしかにそれはすごい。今、地球上は人間だらけだもんね」
「うん」
こんにちは、ずかんです
『繁栄 明日を切り拓くための人類10万年史丨マット・リドレー』を読みました。テクノロジーの側面から人類10万年の繁栄の理由について立証する書籍です。
上下巻述べ500ページにわたる大著。そのまま書評を書いてもおもしろくないので、本を元にした9歳の子どもとの対話篇というかたちでまとめます。
目次
「今、地球上に何人くらい人がいる?」
「地球上は人間だらけって話になったけど、今地球上に何人くらい人がいるかって知ってる?」
「うーん… 30億人くらい?」
「30億人くらい。正解はね… ちょっと待ってね…」
(ライン上をタップすると数字が表示されます)
「73億人!」
「多!」
「すごい人数だよね」
「ちなみに、30年前は50億人だったの」(1985年のラインをタップしてみて)
「ほんとだ」
「つまり、たった30年で20億人以上人間が増えてる」
「まっすぐ伸びてる。もう少しで100億人」
「お、そう思う?」
「だって、まっすぐ伸びてるもん」
「だよね(笑) ちなみに、1万2千年前から見るとこうなってる」
「? 最近一気に増えたってこと?」
「そう。ほら、右の端っこにきてからやっと、グワワーーー!っと増えてる。一気に増え始めたのは、たった数百年前」
「すご。何かあったの?」
「産業革命。イギリスで蒸気の力で機械を動かせるようになって、そこから一気に豊かになった」
「蒸気機関車とか本で読んだことある」
「うん。ちなみにこの表も見てみて。さっきの表の右側を拡大したやつね」
「いちばん左がだいたい200年前で、10億人くらい。今が青い線のてっぺんで70億人を超えてるから、200年で7倍になったってこと」
「ぜんぜん最近なんだね、人間が地球を支配したのって」
「支配(笑)、うんうん。で、赤・黄・緑はこれからの予想の線」
「未来は明るい? 暗い?」
「じゃあ、しつもんね」
「うん」
「さっき、もうすぐ100億人になりそうって言ったでしょ?」
「言ったよ」
「もしこのまま科学が発展したら、世界の人口は赤・黄・緑のどれになると思う?」
「うーん…」
「まず増えていって、…一気に減ると思う。だから、緑」
「一気に減るの?! さっきは増えるって言ってたのに。それはどうして?」
「光化学スモッグとか、水が汚れてコレラ菌とかで死ぬ」
「おぉ…死ぬのか!笑 環境破壊?」
「うん。このままだと北海道は荒れ地になるような気がする」
「荒れ地! どうして荒れ地になるの?」
「環境破壊で、人が減って、工場とかお店も人がいなくなって…」
「あら…。 いち太は、未来は明るいと思う? 暗いと思う?」
「…暗いかな、今の状態だったら」
息子にとって未来は暗いものらしい。でも、わからないでもない。世の中には悲観論が飛び交っていますから。
というか、悲観論であるから耳目を集めるし、ニュースになるということですね。それを見聞きした子どもたちの多くが、
「世界は悪い方向に向かっている」
と考えてしまう。悲しいけれど仕方のないことでしょう。
学習マンガでも地球温暖化ネタや環境破壊ネタって鉄板ですよね。そういえば、ドラえもんカチコチ大冒険も温暖化ネタを扱っていましたし。
しかし、本書で著者は真逆の思想を展開します。
「どの時代で切っても、今ほど最高の時代はない」
大局的にみれば人類は進化し繁栄の道を切り開き続けているのだ、と。
人口動態については国連の予測を用いて「100億人目はうまれない」と書いていますが、それは決して人類の繁栄の終わりを示すものではない、というスタンス。
「科学が発展したら、環境破壊も解決できるんじゃない?」
「あぁ~!! 確かにそれはあるかも!!」
「そんなに心配しなくてもいいのかもね。いち太が環境問題を解決したらいいんだよ」
未来に希望を持ってくれたら嬉しいな、と思います。
「どうして人間だけがこんなに繁栄できたと思う?」
「話は少し変わるけど、どうして人間だけがこんなに繁栄できたんだと思う?」
「…たしかに、いろんな動物がもっと繁栄しててもいいくらいだもんね」
「うんうん。なぜ人間だけ?」
「わかんない」
本書『繁栄』の原題は
『The Rational Optimist
ー How Prosperity Evolves』
直訳すると、
『合理的な楽観主義者
ー どのように繁栄は進化したか』
です。
さて、人間が繁栄できたのはなぜなのか、文明を駆動するものは何なのか、みていきましょう。
「例えばなんだけど… 動物って『交換』ってする? モノの交換」
「しない… あぁ~!! わかった!!」
「自分になるべく有利な『交換』をして、都市をつくっていって、それからだんだん発展していった!」
「うんうん。でも、自分だけに有利な『交換』っていうより、お互いにとっていいところがある『交換』かな」
「うん」
「20万年前のある日に、人間は『交換』っていうのをした。例えば、魚とキノコとか(←この例は話の流れで私が設定)
「わかった! 物々交換だけじゃ何キロも先のところに持っていくの大変だから、それでお金がつくられて、買ったりもお金でできるようになって、人類が急激に増えて発展した!」
(この間読んだインベスターZが混ざってる 笑)
「そうだね、お金も『交換』の続きにあるね。この本に書いてあるのはね、『交換』をしたら、キノコを採る人はキノコだけ、魚を捕る人は魚だけを捕るようになったんだって」
「漁師」
「そう、漁師。それまでは全部一人でやろうとしてたんだけど、何を捕るか、何をつくるかを分けるようになった」
「うん」
「俺はこれつくるから、君はそっち頼むね。これを『分業』っていう。分ける業」
「うん」
「それでね、ひとりがひとつのものに集中したから、たくさん採れるようになったんだって。いっぱい生産できるようになった」
「うん」
「キノコだったらどこにあるか見つけるのがうまくなるし、魚だったら捕るのがだんだんうまくなる。そればっかりやってるから、うまくもなるよね。キノコを採るだけじゃなく育てたかもしれないし、網みたいなものを使って魚を一網打尽にしたかもしれない」
「うん。エサを置いておびき寄せたり!」
「そうそう、そういうこと! どんどんうまくなる。それを『専門化』という」
「『専門化』。いままでぜんぶひとりでやっていたけど、漁師とか農家とかひとつに決まってるってことだよね?」
「そう。『専門化』してどんどん技術が発展していくとね、ある日『革新』が起こるの。『革新』って何かわかる?」
「わかんない」
「イノベーション」
「イノベーション」
「ポケモンの進化」
「ポケモンの進化!」
「成長するってこと?」
「そう、ひとっ飛びに成長するってこと」
まとめます。
著者マット・リドレーは、人類の未来について楽観的な視点で見ています。なぜならば、歴史を紐解いていくと、20万年前に「交換」が起こって以来人類は途絶えること無く革新を起こし続けているから。
- 20万年前~10万年前に「交換」がはじまった
- 「交換」によって「分業」が発見された
- 個々の知識の累積=「専門化」が可能になった
- それ以降ずっと「革新」は続き、生活レベルはなお加速度的に向上している
この「交換」が「分業」を生み、それぞれが「専門化」され、「革新」が起こるという流れは、科学技術が発展した現代においてもそのまま引き継がれています。
例えばiPhoneは超高度に専門化された世界中の技術が統合されて革新を起こしたプロダクトといえるでしょう。
アイデアが出会ってつがいはじめたこと。生殖をはじめたこと(p19)
端的に言えば、これが人類がここまで繁栄した理由です。
「世の中には楽しいニュースと悲しいニュース、どっちが多いと思う?」
「世の中には、悲しいニュースと楽しいニュースのどちらが多いと思う?」
「悲しいニュース」(即答)
「どうしてそう思った?」
「戦争とか、環境破壊とか、殺人事件のニュースが多いから」
「確かにそうだね」
いち太はニュースをみて世の中を悲観的に見ている様子。悲観論がはびこっている理由についても著者は端的に述べています。
無差別的な暴力行為がニュースになるのは、それが極めて珍しいからにほかならない。日常的な親切がニュースにならないのは、あまりにもあふれているからだ。(p152)
なるほど。
そこについても話してみました。
「じゃあ、もうひとつ質問」
「うん」
「今がとっても悲しい世の中で、生きてて悲しいことだらけだと想像してみて」
「想像したよ」
「悲しい世の中で、悲しいことってニュースになる?」
「ならない」(即答)
「どうして?」
「悲しいのが普通だから。珍しくないから」
「おぉ…! 確かにそうだね。この本にも同じようなことが書いてあるよ」
「『無差別的な暴力行為がニュースになるのは、それが極めて珍しいからにほかならない。日常的な親切がニュースにならないのは、あまりにもあふれているからだ。』だって」
「毎日カレーだと珍しくないから飽きるもんね」
「ウケるwww」
「もし科学が発展して、今やってる仕事がぜんぶ機械や人工知能がやってくれる世の中になったら、どう?」
「人工知能って知ってる?」
「マンガで見たことある」
「どんなマンガ?」
「今から20年後にはね、サッカーのワールドカップの優勝国が人工知能で動くロボットになるんだって」
「へ、へぇ~!笑 そんなマンガがあるんだ!」
人工知能の話題になると必ず出てくるのが、「AIに仕事を奪われる」という悲観論。
スーパーのレジ打ちからトレーダーの株式の分析まで、あらゆる仕事が人工知能によって代替される未来は近いでしょう。
働かなくてもよい世の中になったら私はとてもうれしいのですが、それを想像して悲観的になる人も多くいます。それはなぜか?
- 「お金は労働の対価としていただくものだ」
- 「お金がないと生活ができない」
- 「仕事こそが自分の存在意義」
そういった考えが深く根付いているからではないかと思います。
というわけで、「人工知能」と「働くこと」について子どもと話してみました。
「今、いろいろな仕事があるでしょ? コンビニの店員さんとか、工場で働く人とか、会社の社長とか、宅配便とか」
「うん」
「そういう仕事をね、今後ぜんぶ機械や人工知能がやってくれるようになるんだって」
「うん」
「もしそうなったら、いち太はどう? 嬉しい?」
「イヤだ」(即答)
「どうして嫌なの?」
「ぜんぶ人工知能になると、運動とかしなくなるし、いろんなことに興味無くなりそう」
「あと、体に筋肉がつかなくて弱る」
「それが嫌なの?」
「運動したほうが気持ちいいじゃん」
「機械とか人工知能がぜんぶやってくれたほうが超ラクちんじゃない?」
「でも… 逆に質問するけど、ぜんぶ機械や人工知能がやってくれたら、人間はどうやって生きていくの?」
「遊んで」(即答)
「でも、仕事しなかったら遊ぶためお金がないじゃん。人工知能が働いてるから…」
「お金って何のために必要?」
「いろいろ… 物買ったりとか、ごはん食べるにも」
「それもぜんぶ人工知能とロボットがやってくれる。買い物も、ごはんをつくるのも」
「それだと、ぜんぶモノがタダになる気がするけど…」
「タダになると思うよ」
「それならどう? 嬉しくない?」
「まぁいいとは思うけど…」
「でもなんかイヤだな…」
うん、とても不思議です。
「苦労して働くからお金がもらえる」という呪縛を、彼はすでに持っているように思います。
家でぱちぱちパソコンを叩いているだけの私の子どもですらそうなのですから、夜遅くに疲れ切った顔をして帰ってくるお父さんを見る子どもは、いわんや「仕事は苦しいものなんだ」と思うことでしょう。
トーマス・エジソンの1910年の言葉が引用されています。
「私の家や作業場の周囲には、疲れや痛みを感じないモーターがやるべきなのに、動物ーーつまり人間ーーがやっている仕事が、面目ないほどたくさんある。これからはモーターがすべての雑用をしなくてはならない」(p90)
今振り返ればあたりまえで何の違和感もない言葉ですよね。
しかし、1910年当時は労働で食い扶持を得ていた者の反感を大いに買った言葉なのではないでしょうか。
だって、庭師だったり水汲みだったり、当時は労働力を提供して稼いでいた人たちの仕事がモーターに奪われるという危機感があったはずですから。
では、18世紀半ばからの産業革命で石炭や蒸気の力を人間が利用できるようになって、仕事がなくなり民は苦しんだでしょうか?
答えはNOです。
それまでになかった新しい仕事が山のように生まれました。労働環境と衛生環境は改善し、生活レベルは加速度的に向上したはずです。
現代におけるAI(人工知能)やロボットも同様でしょう。
とかく人間は「仕事」という存在価値を奪われることを恐れますが、産業革命時と同じで、また新しい仕事が生まれてくる。
歴史は繰り返すと言いますが、その場でくるくると回る「円」ではなく、「螺旋」を描いて上昇しているイメージがあります。
アイデアがつがうことで、テクノロジーは発展していく。生活レベルは加速度的に上昇し続けている。
AIに仕事が代替されたとしても、今は想像できないような仕事が誕生する。産業革命時代にSEなんて職業が想像できなかったように。
そこまで悲観的になる必要はないのかもしれません。
「最後にもう一度聞くね。未来は明るいと思う?暗いと思う?」
「最後にもう一度聞くね。未来は明るいと思う? 暗いと思う?」
「体のことで言えば暗いと思う。でも、遊ぶということでは明るいかな」
「うん! ありがと! おしまい!」
「はーい」
とてもおもしろい対話ができました!
また、息子も少しは楽観的に明るい未来を見てくれるようになったのではないかな、という気もします。
最後に、この本の主題を私なりに3点にまとめます。
1.『交換→分業→専門化→革新』が文明を駆動させてきたサイクルである
2.人類がここまで繁栄した理由は、アイデアが出会ってつがい始めた=アイデアが生殖を始めたからである
3.歴史は繰り返す。ただし、円ではなく螺旋を描いて上昇している
総じて、
今ほど最高の時代はない。
私もテクノロジー信奉者のRational Optimistですので、同意見です。
ボリュームがありすぐに何かに役立つような本ではないので万人にはオススメできませんが、『人間とは何か』を知ることのできるファンダメンタルで骨太な書籍です。気が向いたら手にとって見ては?
気付きとしては、このような難しい本でも噛み砕けば充分に9歳と対話できるということ。単純に楽しかったです。
繁栄――明日を切り拓くための人類10万年史 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)


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