こんにちは、ずかんです
Welqを発端としたキュレーションサイトのパクり・デマ騒動を見て、「さよならインターネット拡大期」という言葉が浮かびました。
次に来るのは?
フィジカル・インターネット と デジタル・ヒューマンです。
詳しく説明します。
目次
DeNA現取締役会長 南場智子「不格好経営」を再読して
キュレーションサイト問題にインターネット過渡期の様相を見出しています。とてもスリリングでゾクゾクします。
渦中のDeNAについてもう一歩踏み込みたく、創業者で現・取締役会長の南場智子さんの単著「不格好経営」を引っ張り出し再読しました。
サブタイトルは「チームDeNAの挑戦」。2013年の著作。
ITベンチャーDeNAの歴史を知る上で必読の書です。
DeNAがぶち当たってきた数々の壁、乗り越えるためにどう奮闘したか、そういった内容が南場さんの熱量の込められた(かつ、ざっくばらんな)口調で綴られています。
それにしても実際書いてみると、わが社の歴史はひどい。世間さまにここまでアホをさらけ出していいのだろうかと思うほど、ひどい。もし歴史を巻き戻して、立ち上げ期をやり直せるなら、あのときと同じようにやることはひとつもないだろう。
まえがき
読んでみると、ほんとこのとおりなんですよ。
黒幕と称され雲隠れ中の村田マリ女史が暗躍できた理由も、以下より理解できます。(強調筆者)
社長守安の任せる勇気
守安は強いリーダーで、一見何でも自分で決めてしまいそうな印象を与えるが、実は「任せる勇気」が抜きん出て強い。私は社長を退任した今も、何か気づくことがあるとすぐ守安の部屋に飛び込んで意見するが、「その件は今、誰々に任せていて、◯週間後に提案が出てきます」と言われることも多い。
p243
代表取締役社長としてどこまで事業の内実を知っておくべきかという問題はもちろんありますが、守安社長は村田マリ女史を「信じて任せていた」であろうことがうかがえます。
(余談。僕は珍しい名字を見るとその意味について考える癖がありまして、「守安」という漢字が「安全・安心を守る」となるのは興味深いな……と)
ほか、成長期のトラブルが実名を交えかなり生々しく描かれていて、今回のキュレーションサイト騒動を「一連の流れ」の中で捉えることができました。(「一連の流れ」については後述しますね)
1999年のオークションサイト「ビッダーズ」を携えての設立、2004年の携帯用オークションサイト「モバオク」、2006年の携帯用ゲームサイト「モバゲータウン」、2009年からのソーシャルゲーム注力、2012年「コンプガチャ」の社会問題化への対応……
マッキンゼー出身者が起こしたITベンチャーといえばスマートなイメージがありますが、「不格好経営」のタイトルそのままの七転八倒で泥臭いストーリーがとても魅力的。
また、DeNAに限らずITベンチャー経営界隈のスピード感と泥臭さが感じられる良書でもあります。いい本ですよ、ほんと。揶揄してるわけではなく。
✳︎
前置きが長くなりました。本題にいきましょう。
再読して強く思ったことは(著書の内容とはだいぶズレるのですが)、
Welqを発端としたキュレーションサイトのパクり・デマ騒動は、インターネットの「拡大期の終焉」を意味するのではないか
ということです。
DeNAキュレーションサイト群を壊滅に追い込んだのは企業でも組織でもなく、個々のインターネットユーザー(の集合)でした。
インターネットがインフラレベルまでいきわたり個々のリテラシーが一定の水準に上がったからこそ、パワー・トゥ・ザ・ピープルと言いますか、今回のように個人ベースで「大将の首をとる」ことが可能になったのではないかと……。
まずはインターネットが爆発的に拡大・普及した理由から見ていきましょう。
インターネットが爆発的に拡大・普及した「構造的な」理由
インターネットが爆発的に拡大・普及した構造的な理由はなにか?
軍事の必要性から生み出され、ギークにおもちゃとして使われはじめたインターネット。次第に検索やEメールといった仕事の生産性を上げるものとして取り入れられはじめ、経済活動に欠かせないものとなっていきました。
日本においては携帯電話とi-mode(←もはや知らない人もいるでしょう)の普及で個人の手に渡り、仕事だけではなく生活そのものに寄り添っていき、水や電気と同じようにインフラ化していきます。
まずはこのように「ツールとして便利」だというごく当然の理由がありますよね。
ただし、便利なだけではここまでの爆発的な普及は成し得なかったでしょう。生活に根ざした土着的な理由ではなく、構造的になぜこんなに急速に広まったのかという理由を考えてみたいと思います。
結論から申し上げますと、
命を掛けずにトライアンドエラーを繰り返すことができたから
でしょう。
言い換えれば、臆することなく超高速でPDCAが回せたからです。
インターネットで失敗しても(今のところ)即座に死ぬことはありません。
例えばマンモスの時代。どこを攻撃すればより効率的に倒せるかという検証が必要な場合、懐に踏み込む必要がありますよね。間合いに入り込み踏み潰されることはすなわち死を意味します。
たとえば戦国時代。諜報のために敵地に侵入する忍びは、情報を持ち帰れば敵の首をとるための一撃必殺の策をつくることができたでしょう。ただし屋根裏で足音に感づかれれば槍で一刺しです。
この目で見たわけではありませんが。
ようは天秤の「成功」の反対に「命」が乗っていたと。ハイリスク・ハイリターンだったわけです。
対しインターネットは、(今のところ)命にはかかわらない属性を持っています。
失敗しても即座に命を奪われるわけではない。企業がインターネットを用いて事業を起こし拡大を続ける中でも、命は守られるというインターネットの属性は担保されていました。
天秤に「命」が乗っていない。つまり、生物学的にローリスク・ハイリターンの構造です。
まさにインターネット的なDeNAの成長路線
冒頭にて『今回のキュレーションサイト騒動も「一連の流れ」の中で捉えることができました』と書きました。
ここでいう「一連の流れ」とは「超高速トライ&エラーを前提とした拡大戦略」のことです。
「不格好経営」を読むと、DeNAがいかにスピード感を武器に企業規模を拡大してきたかがわかります。成長の前提として超高速のトライ&エラーが組み込まれている。
実に「インターネット的」です(ITベンチャーなのであたりまえですが)。
もちろんそれが悪いというわけではありません。マイクロソフトもグーグルもβ版で製品を送り出してフィードバックを受け改善していくオープンシステムを採っています。(アップルはクローズドシステムの気があると思う)
インターネットの拡大・普及期には、超高速でトライ&エラーを回すことが企業のスケールに直結します。企業がスケールすればするほど、トライ&エラーの本数と加速度もより大きくなっていきます。
相乗効果で加速・拡大していく、制御装置のない高速増殖炉のようなものです。
さよならインターネット拡大期
超高速でトライ&エラーを回すことがインターネット普及・拡大期の必然であるならば、みんなの手にインターネットがいき渡ったときに(まさに今は端末が万人の手の平に収まる時代)、我々にどんなことが起こるか?
ここでようやく、タイトルの元ネタの書籍が登場します。家入一真さんの「さよならインターネット」です。サブタイトルは、~まもなく消えるその「輪郭」について~。
さよならインターネット – まもなく消えるその「輪郭」について (中公新書ラクレ 560)
「はじめに」より引用します。(太字強調筆者)
さらに、常時接続や無線回線が当然となり、スマートフォンの登場、そして「Internet of Things(モノのインターネット化)」、いわゆるIoTの流れもあり、インターネットにつながっているかどうかを、自覚しなくなってしまった。その結果として、インターネットそのものの姿はほとんど見えなくなったのかもしれない。そして見えなくなって、インターネットがその輪郭を失った今、上手くは言えないけれども、弱い人たちやマイノリティが守られる「聖域」としての期待からかけ離れた、逃げ場のない、むしろ息苦しい世界になりつつあると感じているのです。
はじめに
家入さんはギークとしての視点から「インターネットの輪郭の消滅=弱者の聖域の崩壊=息苦しい世界」と述べています。
ただ私としては別の見方もできると考えていて、それは以下のようなものです。
万人の手のひらにインターネット端末がいきわたった
→ 並行して個々のリテラシーがそれなりに高まってきた
→ インターネットがインフラ化した(あってあたりまえに)
→ インターネット普及・拡大期が終わった
→ 超高速トライ&エラーという属性が陳腐化した
→ 人にやさしくない無謀なトライ&エラーはもう許されないよ!
言語化できているかどうかは別として、こんな深層意識が生まれてきたのではないかと。何か私自身が上手く言語化できていない。悔しい……。
もう少しがんばりますのでお付き合いを!
なんといいますか……、
今まではインターネットという集合的無意識が拡大を目指していたため、無謀なトライ&エラーも許容されていたんですね。
で、拡大がもう充分にいきわたったので、「拡大のために無謀なトライ&エラーを許容する」という大義名分が失われた、と。
なので、人に優しくないトライ&エラー、公序良俗に反したトライ&エラー、独善的なトライ&エラーは許されなくなってしまった。
だって、もう無理して拡大する必要はなくなったんだもの。
それが表出したのが今回のWelq騒動。
という感じ。
書いていておもしろいですね。まさに今インターネットは過渡期にある。成長曲線のてっぺんですよ。では……、次に来るのは?
フィジカル・インターネット と デジタル・ヒューマン
騒動の発端が医療と健康をコンテンツとするWelqであったことは実に示唆に富んでいると思います。
なぜならば、拡大を終えたインターネットはどんどんフィジカルに侵食してきているからです。横方向から縦方向に進路を変えたんですね。深くなろうとしている。人間に食い込んできて、どんどん生っぽくなってきている。
フィジカル・インターネット → IoT
初めのほうで「インターネットで失敗しても(今のところ)即座に死ぬことはありません。」と書きましたが、インターネット上の医療情報を盲信して試したとき、もしかしたら死んでしまうかもしれないんですよ。
発信側がモラルを高めること公序良俗を意識することはもちろんですが、普及・拡散が終わり、ユーザーである僕たちも個々でリテラシーを高める努力が必須となってきている。
ギークだけではなく、一般教養として情報の取扱法を身につける必要がある。(こういうことこそ義務教育に取り入れましょう)
心筋を電気的に動かすペースメーカーはネットワークでつながれ、患者の生体情報をリアルタイムでモニタリングし続けるようになるでしょう。で、信号に即時対応し反応を返すようになる。
もし誤った信号が送られたら? 種々のフェールセーフをすべて通過して「インターネットで失敗したら即死」という事態もありえる時代になってきたわけです。
このように、インターネットはどんどんフィジカルに寄ってきています。「IoT(モノのインターネット化)」はまさにこのフィジカル・インターネットを突き詰めていくものです。
デジタル・ヒューマン → AI
対し、人間はどんどんデジタルに寄っていっています。
とつぜんSFに振り切って申し訳ないのですが、理系ミステリ作家といわれる森博嗣さんの小説に真賀田四季という天才科学者が登場します。彼女はクラウド上に意識を移植し永遠に生き続ける意識生命体となります。
この実験をリバースエンジニアリングとしてIT側から行っているのが、「AI(人工知能)」だと思うのです。行きつく先は、もはや肉体が不要となったデジタル・ヒューマンです。
まとめ:やさしく、あたたかいインターネット
まとめます。
インターネットが本格的に一般普及を始めたのはWindows95発売の1995年。それからたったの20年ですよ。たったの20年で、スマホという形で万人の手のひらにいきわたりました。すさまじいスピードです。
で、それが実現できた理由が、すでに述べたように、
命を掛けずにトライアンドエラーを繰り返すことができたから
でしょう。
そして今インターネットは普及・拡大期を終えた。それがどこに表出しているかというと、
個人ベースで無謀なトライ&エラーを監視・抑制できるようになった
広がること(横方向)よりも深めること(縦方向)のプライオリティが増してきた
というところです。
そう考えると、DeNAのWelqを発端としたキュレーションサイト群が徹底的に叩かれたことは必然といえます。
無謀なトライ&エラーを繰り返していて、広げること(ブラックハットSEOで情弱の目に飛び込むこと)ばかり考えていたのですから。
「広げるのはもう終わり!」という、インターネットの集合的無意識に反していたということです。
(ただし超高速トライ&エラーの属性にはマッチしていたので、DeNAは超ド短期でスケールできた)
次はどうなる?
深化をすすめていく中で、インターネットと人間はどんどんと物理的な距離を縮めて一体化しています。
「人間とインターネットの融合」の指向性から見れば、今注力されているテクノロジーが
IoT(モノのインターネット化)
AI(人工知能)
だというのも納得がいきます。(VR(仮想現実)も人間の身体感覚をコンピュータに移管するという意味で、AIのリバースエンジニアリングといえるでしょう)
デジタルが人間らしさを奪っている! とか、人工知能が人間の仕事を奪う! とか悲観論者が言いますが、そんなに恐れることではないと僕は思います。
今のインターネットはまさに過渡期です。一部の人のモノから、意識するしないに関わらず万人がアクセス “せざるをえないモノ” になりつつあります。
水道が整備され蛇口をひねればキレイな水が飲めるようになりました。ガス管が整備されツマミをひねれば料理ができるようになりました。電気が整備されスイッチを押せば照明が点くようになりました。
普通に使っていれば、お腹を下すこともなく、火傷をすることもなく、感電することもありません。安全性が満たされていったわけです。インターネットもインフラとして、安全性と健全性が満たされる方向に進むでしょう。
ネット民の声代理人(←勝手に命名)ヨッピーさんの記事がこうシメられています。
炎上中のDeNAにサイバーエージェント、その根底に流れるモラル無きDNAとは
すべての人々が安心、かつ健全にインターネットの利用ができる社会の実現を願ってやみません。
インターネットは自浄的にそちらの方向に進んでいますし、発信者であるメディア側も「安心、かつ健全にインターネットの利用ができる社会」に柁を切るべきです。というか、柁を切らないと消えていくだけでしょう。
インターネットの持つ超高速トライ&エラーという属性は、お金儲けという側面で見れば「やり逃げ」が可能です。MERY・iemoは売り逃げで50億です(結果論かもしれませんが……)。
公序良俗を疑われるような短期的利益を貪る姿勢ではなく、「すべての人々が安心、かつ健全にインターネットの利用ができる社会の実現」を目指した、やさしくあたたかいインターネットの世界がつくられることを切に願います。
おしまい。
さよならインターネット – まもなく消えるその「輪郭」について (中公新書ラクレ 560)
「キュレーション」の意味について書いた記事はこちら → キュレーションとは?本当の意味|DeNAとWelqに汚され「パクり」と同義にまで貶められたが…


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